Vol.33家具職人 平間香織さん

内装も手がける家具職人として、また気軽に手づくりを楽しめる木工教室の先生として木の温もりを伝えています。


今回のBibi通信は……
家具職人
平間香織
さん

工芸家・家具職人として、大好きな「ものづくり」に没頭する一方で、木工教室を開いて生徒との交流を楽しむ毎日。多忙ながら「今はとってもいい状態。この時間ができるだけ長く続けばいい」と語る平間さんが考える「自分らしい暮らし」のつくりかた。


木の温かみ、ものづくりを通して広がる暮らし

  平間香織さんは、女性としてはめずらしい家具職人。最近はカフェの内装といった大きな仕事や「平間さんにおまかせで」というリクエストも増えて来ました。「相手が期待する以上のものを…」と作業が深夜にまでおよぶこともしばしばだとか。
 もうひとつの顔は木工教室の先生。自宅を改造して週4日は教室を開いています。定員3人の教室では、ある人はガーデニングの道具台、ある人は収納すき間家具といった具合に、自分のつくりたいものを自由に製作しています。性別も年齢もバラバラの生徒たちなのに、家庭的で和気あいあい。
 「生徒さんのつくるものは個性が出ていておもしろい」と語る平間さんは、先生というより、ものづくりのおもしろさをいっしょに味わう仲間といった感じです。
 そして3つめは、夫が取り仕切るカフェのオーナー兼店員。教室が終われば、そのまま「出勤」です。ふらりと毎日でも立ち寄れそうな気軽な雰囲気のカフェは、自身がくつろげる場所でもあるようです。



 ここの内装や家具は、すべて平間さんの手によるもので、立ち寄った店内を見て家具や内装の注文が来るという、うれしい効果もありました。
 「家具って、使ってみてはじめて生きるもの。カフェに来て、実際に座ってみた人に、これが欲しいと思ってもらうのがイチバン」
 カフェに置いてある家具は、どれもシンプル。なだらかな曲線が木のあたたかさを伝えています。


どんなスタイルでも伝わる「自分らしさ」

 1日3役、妻としての顔を入れれば4役をこなす平間さんの毎日は、夫の伸治さんいわく「スローライフ的な仕事として雑誌に紹介されたこともありますが、忙しくてスローどころではありませんよ」とのこと。役割に応じて、時間も場面も細切れに分断されているはずなのに、あわただしさは感じられません。どのシーンでも、暮らしすべてが“平間香織色”に染め上げられているかのようです。
 注文に応じて家具をつくる場合もそう。注文主の希望をかなえるのが第1として、カントリー風にといえばカントリー風に、モダンがいいといえばモダンにと、スタイルにはこだわらず注文を受けているのに、完成した作品は、すべてさりげなく“平間香織色”。



 クリエーターにとって、注文に応じた家具をつくる技術は「あって当たり前」。つくったものにどうやって魂=自分自身を吹き込むかがいちばん大事なことであり、平間さんの家具づくりのポリシーでもあるそうです。
 わたしたちは、とかく自分らしさを「…調」「…テイスト」というように、既存の「スタイル」で表そうとします。しかし、平間さんを見ていると、カタチ、ジャンルにこだわらなくても、自分らしさを伝えることができるのではないか、そう感じられます。


節目のチャンスには、流されず、足を止めてみる

 平間さんは今、32歳。10年前、工芸作家・榎憲良さんの個展をたまたま見に行ったのがきっかけで、工芸の道に入りました。
 「それまでは、ほかの人と同じ、卒業しても何をしようかなあと迷っていたんです。絵や工作が好きとはいえ仕事になるとは思ってなかったし、大学も経済学部でしたから」  それが、榎さんの漆塗りの椅子を見た瞬間、「これだ」と直感したのだそう。すぐ榎さんに弟子入りし、しばらく木工所に勤務したのち、イギリス留学を経てフリーの工芸家・家具職人に。ちなみにイギリスに単身で旅立ったのは結婚後すぐという思い切りのよさ。
 晴れてフリーの工芸家・家具職人になってからは、「自分のように、なにかをつくりたいと考える人に、気軽に木工に親しんでもらえる場に」と教室を開き、自宅近くにたまたま使える空間があったときには、「イギリス留学中に通ったような、地元の人と交流ができる気軽なカフェがあったら」と、カフェをオープン。
 「その頃は、仕事もあまりなくてヒマだったから」と、毎週末に作業をして、半年がかりで自分自身の手でつくったこのカフェは、結果として「この椅子のサイズ違いをつくって」「うちのカフェの内装を頼む」というように、平間作品のちょっとしたショウルームとしても活躍し、今の仕事につながっています。
 話をうかがうと、「フットワークが軽く行動的な人」という印象を受けますが、それは違うと平間さんはいいます。



 「だれでも、節目、節目にチャンスが来るんです。そういうときに、ま、いいか、と流してしまうのではなくて、ちょっと真剣に考えようかとその都度立ち止まってきたんです」。
 こういう仕事がしてみたいと思う、こころひかれるものがあった、印象深い人と出会う…。そんなとき、「そう思った自分」を日々の忙しさにまぎれてなおざりにせずに、その声をきちんと聞いてあげる…そうすれば、誰しも自分なりの「節目」を、そして「チャンス」をつくり出せるのかもしれません。


「好き」を見つけるコツ

 「カフェを手がけるとき、家具はあまり目立ち過ぎないようにしました」と、家具職人らしからぬ発言。「トータルで考えたら、家具は主張せず、カフェの一部でいいですから」。
 このトータルということばが、平間さんの話にはよく出てきます。
 「ものごとをトータルで見るのが好き」「トータルでコーディネィトするのが楽しい」「結果的にトータルで見ると」など…。そして「好き」を集めると、モノでも暮らしでも、「トータルで自分らしくなる」とも。
 しかし、多くの人は、「好き」がなかなか見つからないことに、焦りや物足りなさを感じているもの。
 「木工教室の生徒さんにも、そういう人が多いです。今の生活に疑問を感じて仕事をやめてきた人、好きなことを見つけたいからと来た人。大事なのは、とにかく外に出て人と交流し、いっぱい見て聞いて、いろいろやってみることかな」。そして「これが好き」という自分の直感を信じること。
 教室でも、1作目をつくってもらうときは「直感で」とアドバイスしています。
 「悩み過ぎるといいものはできませんから。それに、いろいろ考えても結局、最初に好きだと直感したものに戻ることって多いんですよ」
 そして、「あ、これ」と感じたら、次は、よく知るために研究することが大切だとも。
 「なんでこういうのが好きなんだろう、どういうところが好きなんだろうとか…。研究することが苦手だと、好きなことって見つけられないと思います」

まず、外に出てまわりを見回してみる。なにが好き? なにがしたい? それを突き詰めることに興味が持てる?情報に振り回されずに自分の感覚で選び、「好き」を集めていけば、トータルで「自分らしい暮らし」が築けそう…平間さんのカフェには、そんなことを予感させてくれる空気が流れていました。

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平間 香織さん プロフィール

1972年大阪市生まれ。
桃山学院大学経済学部卒業後、工芸家榎憲良氏に師事。松原高等職業訓練校木工科卒業、木工製作所勤務を経てイギリスの木工家/執筆家デービット・チャールズワース氏に師事。現在、大阪府豊中市で別注家具を製作するかたわら、ハートランド木工教室を開き、手づくり木工の良さを伝えている。2年前、ファーニチャー&カフェ「キューガーデン」を夫とともにオープン。
ハートランド木工教室ホームページ
http://www.1ban.com/wood/

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○● 平間さんのお気に入りアイテム●○
カフェのロフトスペースにあるコンパクトサイズの「ちゃぶ台」。平間さんのお手製で、自信作。
かわいい見た目にそぐわず、ずっしりと安定感があるのは、合板ではなく無垢材(天然の1枚板)を使っているから。天板部分の厚さをそのままにすると印象が重いため、縁を削って軽さを出しているのがポイント。色もナチュラルで、和にも洋にも合うほどよいオリエンタルさが部屋全体を落ち着かせます。カフェに来た客から「これ、ください」とよく注文が入るアイテムなのだとか。このちゃぶ台をかたわらに、CDをかけてお茶を飲んで…それだけで「自分らしい」リラックス空間ができあがりそうです。